第21章 育まれる愛とフルムーン
そう語るマレウスは、また悲しそうな表情をしていた。ローズは、彼のこういう顔を度々見てきた。
そして、見る度に思う。この顔をしている時の彼は、一体どんな事を考えているのだろう。何に心を痛めているのだろう、と。
「妖精族は、人間の何倍 何十倍もの時を生きる。
お前達の十年など、僕達にしてみれば ほんのひと時だ」
『あ、だからマレウスの見た目は、6年前と全くと言っていいほど変わってなかったのね。今更ながら納得だわ』
「お前は…たった数年の間に大きくなったな。
そして、美しくなった。
人の成長というものを目の当たりにする度に、僕は心底驚かされる」
『っ、う、美し…』
「と、同時に、憐れで不憫だとも感じる。
人間とは、なんと儚く…か弱き生き物なのだろうかと」
ローズは、美しいと言われた事に 内心は踊り出しそうなほどに嬉しかったのだが。そんな感情は瞬く間に消え失せてしまった。
それくらい、マレウスの瞳が悲痛に揺れていたから。
一緒に時を過ごす中で、彼は様々な表情を見せてくれるようになっていた。が、ローズはマレウスの、この表情だけは見たくないと常々思っていた。
好きな人には、悲しい顔をして欲しくない。出来るならば、マレウスにはいつだって笑っていて欲しい。そう願っていた。
同時に、つい そう願ってしまう事こそが、恋なのだと知ったのだった。
『あ、あはは!ほら、私なんて、そんなか弱い人間の中でも、もっとか弱いのよ?だって、もしかしたらあと数週間で人生が終わるかもしれないのよ?
マレウスの、その長〜い寿命を分けて貰いたいくらいなんだから!ふふふ』
「……そうだな。
僕も、そう思う。本当に、何度そう思った事か 分からない」
彼に笑って欲しくて放った、ローズの自虐ギャグも虚しく…。マレウスの表情は、より憂いを帯びてしまうのだった。