第21章 育まれる愛とフルムーン
『————♫ 』
まだ朝靄も晴れない早朝。豊かなメロディーを口ずさみ、彼女が花畑に着座する。すると必ず、どこからともなく森の動物達が側にやってきた。
鹿や小鳥、フクロウや兎。皆んながローズに擦り寄る。そして彼女は、そんな動物達へ愛を返すように今日も歌って聞かせてやるのだった。
しかし最近は、彼女の歌を聴きにやってくるのは動物達だけではない。
ローズがこうして 外に居ると、決まってやってくる男が1人…
彼女は、肌を纏う空気が少しだけ冷たくなるのを機敏に感じる。それこそが、彼が近くにやってきた合図なのだ。
『マレウス、こんにちは』
「僕の事は気にせず、続けてくれ」
マレウスが現れた事で、動物達は蜘蛛の子を散らしたように、その場から居なくなってしまう。
彼らには申し訳なかったが、ローズの心は踊った。
マレウスが、また会いに来てくれたからだ。
ローズは、歌に愛を込める。
ありったけの愛を。
想い人に会えない時間を、自分がどのような想いで過ごしているかを
切なく歌い上げる。
想い人に会えた瞬間、自分がどれくらい嬉しくなるのかを
楽しげに歌い上げる。
想い人が夢に現れた日は、自分がどれだけ幸せに1日を過ごせるのかを
麗しく歌い上げる。
「…本当に素晴らしいな。お前の歌は」
『そ、そうかしら。なんだか照れちゃうけど…
でも嬉しい。私、歌うのが大好きだから!
私にこの歌声をくれたのはね、フォーナという妖精さんなの。生誕祭の時の話だから、もちろん私に記憶はないのだけど』
ニコニコと心底嬉しそうに、話すローズ。
マレウスはそんな彼女を直視出来なかった。もう16年も前になる生誕祭を思い起こし、遠くを見つめる。
そして小さく、そうか。と呟いた。
どうしても彼は、ローズとの過去を思い出すのが辛かった。
後悔に苛まれる、彼の心が憂うのは自然な事なのかもしれない。