第3章 暗躍する確固たる悪意
オーロラは、地下室にいた。
そう。ドラゴンのガーゴイルが安置されている、あの部屋だ。
彼女は母の腕の中で、懸命にその小さな頭を働かせていた。
今回のこの騒動の事についてだ。
それはリア王妃も同じだったのだろう。小さな声が、オーロラの頭上から聞こえてきた。
「なんという事なのかしら…。
まさか…本当にマレウスが、攻めてくるなんて…。
アズールの言っていた事が、現実となってしまった」
震える母の声。その言葉は、アズールの計画が首尾良く進んでいる事を物語っていた。
彼の思惑通り…彼女はあの黒装束を見て、今回の襲撃の首謀者がマレウスだと思い込んでいた。
それでなくともアズールから昨日、マレウスがオーロラを狙っていると嘘の情報を与えられたばかり。
そう結論づけるのは、ごく自然な事と言えよう。
しかし、オーロラは母の言葉に首をひねった。
『え?何?お母様…誰?
今、誰がこの城を攻めて来ていると言ったの?』
娘の言葉に母はハッとした。
つい自分が彼の名を口にしていた事に気が付いたのだ。
今までオーロラにはひた隠しにしてきた、恐怖の大魔法士の名を…。
「ごめんなさい、オーロラ。何も無いのよ。
…貴女の事は、絶対に守ってみせるから」
王妃は、彼女の体をギュっとより強く抱き締めると。
目の前のドラゴンのガーゴイルを睨み上げて言った。
そんな母の様子を見ながら、オーロラは迷っていた。
今、言ってみようかと。自分がフィリップから聞いた事実を。
オクタヴィネルのアズールが、我が国を手中に収めんと暗躍している事。
信じてもらえるかどうか、どきどきしながらオーロラが口を開こうとしたその時。
廊下に立つ兵士の悲鳴が、耳をつんざいた。
「『!?』」
オーロラとリア王妃は、身を固くした。
室内にて2人を護衛していた兵士が、ドアへと走った。
ゆっくりと…兵士が取り囲んだドアが開かれる。
中に入ってきたのは…。