第3章 暗躍する確固たる悪意
廊下へ出ると手筈通り、軍の精鋭数名がオーロラと王妃を護衛した。
そして全員、全速力で避難経路を駆ける。
「オーロラ…大丈夫よ。地下はきっと安全だから」
『…うん』
王妃は、自分に言い聞かせるように言った。しかし
言われる方も言っている方も、安全な場所などもうどこにもない事を悟っていた。
まだ城内に族は入り込んでいないのだろうか。
城全体が揺れるような轟音は、たまに響き渡るのだが
族にはまだ1度も出くわしていない。
オーロラは走りながら、窓の方へ目を向けた。
『っ、!』
闇に紛れるような黒い衣装に身を包んだ人間達が
城を守る兵士達に襲い掛かっているのが見えた。
彼女はあまりの恐ろしさに、すぐに顔を前に戻した。
一瞬だけだったが…たしかに彼女は見た。
大きな炎を操る人間の姿を。
そう。いま襲撃している族の多くは…
魔法士だ。
もう少しで目的の場所。という時に、ついに恐れていた瞬間が訪れる。
曲がり角から、黒いフードを被った男が立ちはだかったのだ。
「お下がり下さい!!」
兵士はオーロラと王妃を、背中で庇った。
その間に他の兵士が銃を構える。
大きな音と共に黒い鉛玉が発射され、族の体目掛けて飛んでいく!
しかし
男が軽く手を上げると、なんとメキメキと音を立てて大木が現れた。
鉛玉は木の幹に、ギュルギュルと音を立てて食い込んだ。
やがて、ぽとり。と音を立てて弾は地面に落ちる。
「怯むな!!かかれ!」
剣を持った兵士達が2人、相手に向かって行った。
オーロラは、彼らの戦いを見届ける事なく
残りの兵士と共に再び走り出した。
いつもよりも長く感じる廊下を、ひたすらに駆け抜けた。
ギュっと強く瞳を閉じて、願った。
どうか、誰も死なないで。
全員無事でいて、と。