第19章 悔恨と踠きのドラコニア
マレウスがその場を去ると同時に、時計の針は動き出す。
ローズが家へ戻ると、男性陣4人は まだ論争という名の言い争い中だった。
それもそのはず。実際は1時間ほどが経過していたが、彼等にしてみれば数分しか経っていない。
しかし彼女が外から姿を現したのを見て、全員が口を噤んだ。
「おや、ローズさん。いつの間に外に出てらしたんです?」
『…あ……少し…』
アズールの質問にも、気の無い返事。
誰の目から見ても、様子がおかしかった。
「ローズ?どうした。なんだかぼーっとしてるようだが、もしかして具合でも悪いか?」
『……なんでも、ないの』
彼女を案ずるトレイの言葉にも、まともに答える事が出来ない。
「フフ。体調を崩してしまわれるほど、アズールとの婚姻が憂鬱なのでしょうか」
「ジェイド、それは僕に失礼でしょう」
アズールの眉間に皺が寄る。
「何度でも言わせてもらうが、俺は婚姻を認めない。
愛の無い結婚をしている暇なんて、ローズには無い。それはお前達だって、よく分かってるだろ?」
いつもは温和な態度のトレイが、珍しく獰猛な雰囲気を滲ませた。
外は、風が強くなって来た。森の家の窓を、ガタガタと揺らす。
「…そんな事言ってっけどさぁ。決めんのはお姫様でしょ?
あ〜。それとも もしかしてぇ、それってウミガメちゃんの、ただのワガママだったりして?」
フロイドがトレイの事を、ワカメではなくウミガメと呼んだのは、きっとただの気まぐれだろう。
「そうだな。たしかにこれは…俺の勝手なワガママかもしれない。
俺が、ローズにアズールと一緒になって欲しくないだけかもな」
「なるほど。その、心は?」
アズールは、興味深そうに眼鏡を持ち上げた。