第19章 悔恨と踠きのドラコニア
『!ネックレスが指輪に…』
マレウスは、ローズの左手をとると 薬指にそっと嵌めた。
なぜあえて、その指を選んだのか。きっと、深い意味は持たない。だが。女性にとってそこは、特別な想いが宿る場所…。
ローズは、逸る心臓を押さえつけて美しい黄緑色の石を うっとりと見つめた。
「…では、また会おう。人の子…いや、ローズ」
『!!待っ』
一陣の風が吹き抜け、思わず目を閉じてしまうローズ。
そして次に目を開くと、やはり彼の姿はもう そこにはなかった。
彼女は、熱くなった胸を 自らの手で押さえた。
マレウスは、さよなら。ではなく、また会おうと言ってくれた。それに…名前を、呼んでくれた。
ローズはその時に初めて気が付いたのだ。マレウスが、自分の新たな名前を知っている意味に。
『貴方は、もしかして…ずっと私を、どこかで見守っていてくれたの?』
ローズとマレウスが最後に会ったのは、まだ彼女が オーロラ と名乗っていた時だ。
しかし彼は、たしかに自分の事をローズと呼んだ。
その名を知っている者は限られている。ローズがこの森の家に隠れ棲んでいると、知っている者だけなのだ。
自分を事を、影から見守り続けてくれていたと知った彼女の胸には、未だかつてない程の愛が 溢れるのだった。