第19章 悔恨と踠きのドラコニア
2人は再び森の家近くへと 瞬時に移動する。相変わらず、息をするように大魔法を使ってのけるマレウスには、ただただ驚かされる。
ローズは自分の中に、今まで感じた事のない感情が芽生えているのを自覚していた。
マレウスと、離れたくない。さよならと言わなければならないのに、唇がそれを拒否するのだ。
もっと、彼の姿を見つめていたい。隣にただ、佇んでいるだけでいい。
もっと、その涼しげで低い声を拾っていたい。それが叶うのなら、代わりに世界中の音が聞こえなくなったっていい。
この不思議な感覚を、彼が自分に対しても持っていてくれますよう。そう願いを込めて、ローズはマレウスを見上げる。
「これを持っているといい」
そう言って、差し出された手の中には、シルバーチェーンのネックレスがあった。
控えな飾り石が付いており、その石は マレウスの瞳と全く同じ色で、淡い光を放っていた。
「また 何かお前が窮した際に、ただ願えば良い。
自分を助けてくれと。その想いに、僕は応えよう」
そう説明しながら、マレウスはチェーンをローズの首元にかけようとする。
しかし…。彼女の胸元には既に、とあるネックレスがあしらわれていたのだった。
それは、以前デュースから貰ったものだった。
「ほう。どうやらそこには先客がいるようだな。では、こうしよう」
マレウスは一度、プレゼントしたネックレスを手の中に戻す。優しく握って、次に手をゆっくりと開かれた時には…
そこには、ネックレスの姿はなく。代わりに、華奢な見た目のリングがあった。