第19章 悔恨と踠きのドラコニア
しかし…。
マレウスが時を止めていた為に、どの馬も まるで美しい彫刻のように静止していた。
いや、“ どの馬も ” ではない。
『あ、』
1頭だけ、彼女達と同じ時空にいる馬がいた。たしかにいま、首をゆっくりと動かしてローズの方に視線を向けたのだ。
そして、それは馬ではなかった。
額には螺旋状の筋が入った、立派な角。そう、あれこそが…
『ユニコーン…』
体は薄く輝いて、その鬣は絹糸のように艶やかだ。思わず魅入ってしまい、息をするのも忘れてしまいそうになる。
凡常の人間ならば、きっとそのままユニコーンの美しさに飲み込まれ、ただ眺める事しか出来なかっただろう。
しかし、ローズは違った。確実に、為さねばならない使命があった。
彼女が一歩 距離を縮めると、ユニコーンは警戒したのか、ゆっくりと後ずさる。
『待って!お願いっ、行かないで』
焦ったローズは、前に出す足がもつれた。その場に、どっと倒れ込んでしまったのだった。
殴打した膝の痛みに、一瞬顔をしかめたのだが。すぐに顔を前に向ける。
すると、さきほどまでは離れた場所にいたユニコーンが、なんとローズの目の前まで移動してしたのだ。
『あ…』
ローズは、ゆっくり。ゆっくりと、手をユニコーンの顔に持っていく。
とっくりと濡れた漆黒の瞳。瞬き1つする事なく。まるで彼女の気持ちを汲み取るかのように、ただただ ローズの事を見つめていた。
そんな美しき生物に、彼女は触れる。
両手で優しく顔を包み込んで、自らの額で ユニコーンの鼻梁に触れた。