第19章 悔恨と踠きのドラコニア
その光景が美しすぎて、恐怖を覚えたローズ。思わずマレウスを見上げて問う。
『マレウスは…、一緒には行けないの?』
「ああ。男の僕が行けば、ユニコーンはたちまち暴れ出すだろうからな。
伝えていなかったが、ユニコーンは 身も心も清き乙女の前にしか心を開かん」
身も心も清き乙女。身…。
ローズは、一抹の不安を覚える。
口淫をいたした自分は、果たして身の清き乙女といえるのだろうか?
『ギリギリ…セーフ?』
「??」
ローズは頭を傾ける。そんな彼女を見て、マレウスもまた頭を傾ける。
『いやでも、ここでこうしてても仕方ない!
ありがとうマレウス!私行ってくる!』
「僕はここで待っているとしよう。道中 気を付けるのだぞ」
駆け足で小道に向かうと、マレウスの方へ振り返って手を上げる。
相変わらず、時は止まったままだった。
普段は意識していないが、風になびかない木の葉の 何と異状なことか。鳥肌が止まらなかった。
同時に、こんなにも凄い大魔法を 息をするように使ってみせるマレウスにも驚いた。もしかすると彼は、想像しているよりももっとずっと偉大な魔法士なのかもしれない。
しばらく歩くと、湖が見えて来た。ゴールが近いと分かったローズは、懸命に地面を蹴ってその場所へ急いだ。
『!!』
目の前に、美しい湖が一面に広がる。
完全に凪いだ水面には、空とお揃いの大きなフルムーン。
そして…水辺には、この世の物とは思えない程 美しい馬達が集まっていた。
水を飲んだり、腰を下ろして休んでいたり。5頭ほどの馬が思い思いの時を過ごしていた。