第3章 暗躍する確固たる悪意
あの長い長い会議があった日の、翌日の夜。
オーロラは両親と共にディナー中だ。
まだ10歳に満たないというのに、フォークとナイフを器用に使いこなす。
無駄に長いテーブル。
父と母とは、考えられないくらいの距離があった。
勿論食事中に会話などしない。
王族以外の人間から見れば、贅沢で異様な光景かも知れなかったが、
これが彼女の日常だった。
そう。今日の今のこの食事も、ただの日常に過ぎない…
はずだった。
オーロラがデザートのシャーベットに匙を入れた、その刹那。
今まで聞いた事のないような音。そして感じた事のないような揺れが彼女達を襲った。
思わず座っていた3人は同時に立ち上がった。
「な、なんだ一体今のは、!」
国王が、給仕係に問い掛ける。しかしそんな事、この従者が知るはずはない。
彼だって私達とさっきからここにいたのだから。
「て、敵襲!!敵襲です!どうか早くお逃げ下さいませっ」
ドアを蹴破るような勢いで、全身を鎧に包んだ兵士が叫んだ。
オーロラは頭がクラクラした。
動きたいのに、動けない。
しかし彼女が立ち竦む間にも、再度轟音は鳴り響き。地面は揺動した。
咄嗟に母の手を取った。決して、恐怖のあまり母に縋ったわけではない。
彼女自身が、両親を守ろらなければ。と思ったからだ。
この異常事態を1番最初に飲み下したのは、他ではないオーロラだった。
何故なら…彼女はこの城で唯一、こういう事態に陥る事を予想していた人物だったから。
『お父様、私とお母様は避難してるから…、
お父様も、どうかご無事で』
「オーロラ…」
父は娘を抱き締めて、頬にキスを落とした。
そして彼女は、母の手を引いて廊下へと出た。
実は有事の際、オーロラ達 王族が取るべき行動はマニュアル化されていた。
性別が女であるオーロラとリア王妃は、戦う事はしない。
城の地下へと避難するのだ。