第3章 暗躍する確固たる悪意
フロイドは、ただ彼女を驚かせるだけのつもりだった。
しかし、少し肌を舐め上げただけで可愛い反応を見せる彼女。
その大きな瞳は、こぼれんばかりに見開かれており。
滑らかな頬は綺麗なピンク色に染まっている。
フロイドは考えた。
王国の姫に、ただの同盟国の従者に過ぎない自分が手を出せば、どうなってしまうのだろう。
フィリップに打ち首にされるかもしれないし。
アズールの計画だって確実に頓挫するだろう。
しかし彼は、もともと先の事を計算して動くタイプではない。
いつだって、自分の心の隙間を埋める為に行動するだけ。
結局は彼の思考は、彼女の薔薇のように赤い唇を吸う事だけに縛られた。
顎に軽く手をかけて上を向かせる。
フロイドは徐々に瞳を閉じて、彼女との距離を詰めていく。
『…フロイド』
意外な事に、彼女もフロイドの名を呼び。
彼の方へと顔を近づけていく。
まさかの反応に、彼は生まれて初めて胸が熱くなるのを感じた。
フロイドが薄く唇を開くと、尖った歯が隙間から覗いた。
あと少しで、2人の距離はゼロになる。
その時。
ガリ
「っっ!!??」
フロイドの鼻に、激痛が走った。
思わず彼女から飛び退いて、その鼻を両手で覆った。
「痛いなぁ!何すんの…」
そこには、小さくて可愛い歯型がくっきりと付いていた。
『っ…ふふ、フロイドの鼻、赤くなってる。
あはは、とても痛そうね』
「痛そうねって…姫様が噛み付いたんじゃん」
『うん。だから、おあいこね。
今のでチャラにしてあげる。
貴方が今、私にしようした事。忘れてあげるわ』
彼は頭をかきながら考えた。
つまり彼女は、彼がお姫様に愚かな狼藉を働いた事を誰にも話さない。と言っているのだ。
フロイドには理解出来なかった。
強引にキスをされそうになった事を隠し立てする事は、オーロラにとってメリットがあるとはとても思えない。
彼女が自分を庇いだてする理由が、分からなかったのだ。