第16章 運命とガラスの靴
城のボールルームは、それは見事なものだった。
広さだけで言えば、ローズがかつて住んでいたディアソムニア国の城のものより大きいかもしれない。
煌々と輝くシャンデリアは、ガラス細工のように美しく。敷き詰められた絨毯は毛の密度が高く、少し歩いただけで その豪華さが足の裏から伝わってくる。まるで雲の上を歩いているよう。
しかし、2人はこういう場にはそれなりに慣れている。従って、この雰囲気にのまれる事は一切なかった。
『さ、王子様はどこかしら?』
「あそこに座っておられる方では?」
ジェイドが視線を投げた方向に、ローズも顔を向ける。するとそこには、たしかにそれらしき人物が鎮座していた。
麗しい黒髪に、白い王族服に身を包んだ若い男性。周りにいる たくさんの女性達に囲まれて、困惑している様子が見て取れる。
「おやおや、さすが随分とおモテになるようで。お邪魔しては悪いですかね」
『…ううん。私には分かる…。あの王子様、うんざりしてるのよ、きっと』
ローズは、自分の過去と 今の王子の姿を重ね合わせていた。
舞踏会や来客の度に、自分の周りに集まってくる数多の人間。そのほとんどが、自分の興味などないのだ。彼等が興味のあるものなど、分かりきっていた。
それは、権力や財産。金に目が眩んだ大人達が、まだ幼かったローズにまで媚を売っていたのだった。
『…可哀想に。大変ね、王子様も』
「…そうですね。
それで、どうしますか?あの女性陣を掻き分けて、王子に話を聞いてもらうのは、少し骨が折れそうです」
2人は、相変わらず女性に囲まれている王子を見る。
『…こっちから近づけないのなら、向こうから来てもらいましょうか』
何か悪巧みしているような彼女を、ジェイドは楽しそうな表情で見つめながら問う。
「と、言いますと?」
『ジェイド、貴方ダンスは出来るわよね』