第16章 運命とガラスの靴
馬車から一歩 踏み出す。城の入り口まで赤い絨毯が敷かれており、足の裏にふわりとした柔らかい感触が伝わってきた。
2人は、城内まで続いている長い長い階段を見上げる。
その一段目に足をかけたジェイドを呼び止めるローズ。
『ジェイド』
「はい?」
首を傾ける男に、彼女はピシャリと言い放つ。
『はい?じゃないでしょ。貴方まさか…舞踏会が初めてだ、なんて言わないわよね』
じとっと自分を見つめてくるローズ。ジェイドはわざとらしく言葉を返す。
「おや、これは失礼。僕が仕えているのは、姫ではなく王子なもので…失念していました」
改めて…と、ジェイドはローズに向かってうやうやしく頭を下げたあと。左手を差し出す。
「お手をどうぞ。お姫様」
その様子に、少し安心した表情のローズは 彼の手の上に自分の指先を預けた。
ジェイドは彼女の手をそっと、自分の右腕に導いた。
ようやく2人は、長い階段へと向かったのだった。
自分の右腕に掴まりながら、空いた手でスカートを少し持ち上げて進むローズ。
背筋はピンと伸びて、ゆっくりと歩を進めている彼女は。やはり周りの人間とは一線を画したオーラがあった。
ジェイドは、彼女が本物の姫である事を今さら自覚したのだった。
少しだけ、ほんの少しだけ…その横顔に見惚れた。
この長い階段が、もし終わらなければ…。彼女は自分の腕に捕まる事も やめないのでないか。
そんな馬鹿みたいな考えが頭をよぎった。