第16章 運命とガラスの靴
戸惑いながら 互いに、互いの姿を確認する。
『ジェイド素敵!凄く似合ってる!』
心の底からそう思ったので、素直に賞賛の言葉をかけるローズ。一方のジェイドも、まじまじと彼女を見下ろして言う。
「貴女もお似合いですよ。…そうですね、まるで本物のお姫様みたいで」
『本物のお姫様なのよ。貴方わざと言ってるでしょ』一言余計
ジェイドは、どうして照れ隠しのような言葉を付け加えてしまったのか。自分でもよく分からなかった。
いつもなら、良いものは良い。良くないものは良くない。そう自分に正直に言葉を紡ぐはずなのに。
どうも彼女を前にすると、いつもの自分のペースが崩されてしまう感覚。
しかし彼は そんなイレギュラーすらも、心の底から楽しめる男なのであった。
「ほらほら、急いで馬車に乗って!舞踏会は待ってくれないのよ!」
痺れを切らした魔法使いが2人を馬車の中へと まくし立てる。
しかし。いざ2人を馬車に乗せると、あ!と何かを思い出したように声を上げるのだった。
「大切な物を忘れるところだったわ」
『大切な物?』
杖をふわりと左から右へ振るうと、そこにはキラキラ輝くガラスの靴が片方 出現したのだ。
そのあまりの存在感に、ローズはうっとりとそれを見つめる。月の光を集めて輝くガラスの靴は、今まで見たどんなに豪華なブランドの靴より、美しくて気品にあふれていた。
「これを、必ず王子様に渡して欲しいの」
ローズを真っ直ぐに捉える、魔法使いの瞳を見て ジェイドは問う。
「…靴の片方を渡すだけで、シンデレラさんと王子様は 恋に落ちるのですか?」
嘲笑混じりのジェイドに、彼女は自信満々に答える。
「ええ!だって、それが運命だから」