第2章 オッドアイを保有する兄弟
一瞬、キスをされてしまうのでは。と思った彼女だったが、そんな事はなく。
彼の顔は、オーロラの耳元へと向かった。
そして、その唇が耳に少しだけ触れるくらいの距離まで近付くと、
甘ったるい声で囁いた。
「お姫様は、幸せそうでいいねぇ。
でも…きっとこれから君には、怖くて辛ぁい人生が待ってるよ?
その時君は
どんな顔をして、どんな声で泣くのかなぁ?」
『!?』
突然与えられた不穏な言葉。当然のごとく驚いたオーロラは、彼の両肩を強い力で押した。
しかし彼の体はピクリとも動かない。
ただキラキラとした三連ピアスが、少し揺れただけだった。
「オレ見たい。お姫様の泣き顔。聞きたいなぁ、泣き声…
だって絶対に隠れんぼより、そっちの方が楽しいよねぇ」
『フロイド…』
「…なぁに?お姫様…」
にやりと笑うフロイドの目を、至近距離で見る。
彼の目には、欲望が渦巻いていた…
オーロラは、由緒ある王族の娘として育って来た。
だからそれなりに多くの人間を見てきたと自負していた。
そしてその中には少なからず、フロイドのように欲望に目をギラつかせる人間も存在した。
“金” “権力” “地位” “名誉”
人間が何を欲するかは実に様々だったが。
目の前の男が欲しているのは、そのどれでもない。
今フロイドを突き動かしているのは
“好奇心”だ。
それが分かった瞬間、オーロラは彼を理解しようとする気概は捨てた。
おそらくフロイドは、自分が1番 “面白い” と感じる方向にことが転がるように行動しているのだろう。
きっと、その為なら主君だって裏切るし。自分の事も傷付けかねない。
オーロラはなんとなくそう思った。
そんな破茶滅茶な人間を、理解しようなどというのは不可能だ。
『…私決めたわ。
貴方の前では、どんなに辛くて悲しい事があっても。
絶対に泣かない事にする』
彼女がそう言うと、フロイドの目が少しだけ驚きの色を見せた。
至近距離のまま彼女を見つめ、そして楽しそうに呟いた。
「いいねぇ…
…面白いよ〜。お姫様」