第11章 菓子より甘いはクローバー
オーブンに入れてしばらくすると、見事にこんがりとクッキーは焼きあがる。
『良い匂い…。んーっ早く食べたい!』
子供のようにはしゃぐ彼女から、トレイは熱々の天板を出来るだけ上へ遠ざける。
「分かったから!まだ熱いから少し待て」危ないヤケドする
『あー!私のヘソの緒クッキー焦げてる…』
「おい、自分で言ってるけどそれは良いのか?」
粗熱を取っている最中のクッキーを、2人して覗き込む。
『だって…もうヘソの緒にしか見えないんだもの。トレイのせいで』
「それは悪い事をした」
やがて、粗熱の取れたクッキーを皿に移し。紅茶と共にテーブルに並べる。
そしてやっとの事で実食タイム。
『美味しいっ…サクサク…』うっとり
「良かったな」
美味しそうにクッキーを頬張るローズを見ながら、トレイはカップを口元に運ぶ。
菓子が上手く焼き上がった事よりも。彼女が美味しそうにそれを頬張っている事の方が トレイにとっては、はるかに嬉しかった。
『見て見てトレイ!』
彼女の声に弾かれるように、落としていた視線を上げる。
『ふふ、トレイの真似っ』
ローズは、自分の左頬の前に1枚のクッキーを かまえて言った。
そのクッキーは、よく見ると…。クローバーの形をしている。
「……いつの間に、そんなの作っていたんだ?」
『上手に出来たでしょう?驚かせようと思ってこっそり作ってたの。トレイに食べてもらおうと思って。
良かった…これはクローバーだって、伝わったみたいね』
彼は、嬉しさのあまり胸が震えた。
ローズが、自分の事を思いながら 自分の為に菓子を作ってくれた事が…
たまらなく嬉しい。