第11章 菓子より甘いはクローバー
「……相変わらず、ローズのセンスは独特だよな」
天板に並べられていく、クッキーの造形を見てトレイは告げた。
『そう?普通にベタな形を作ったつもりなんだけど…。
ほら、これとか』
ローズは自信作のクッキーを指差して。トレイに、これが何に見えるか問う。
三角形に近いその形を見て、彼は答える。
「…おにぎり?」
『誰がクッキーで米を表すのよ。ハートよハート!どこから見てもハートでしょう!』
「あぁ…ハートだったのか…。じゃあ、もしかしてこっちも
俺が予想した物とは違うかもしれないな。何を作ったのか教えてくれるか?」
今度はトレイが、もう1つの作品を指差して問う。
『……トレイには、何に見えているの?』
トレイは改めてじーーっとそれを見つめる。
2本の細長い生地を合わせ、ねじねじにされているその形は…紐のようだ。
「……ヘソの緒?」
『だから!誰が!クッキーでそんな気持ちの悪い物を作るのよ!
これはキャンディケインよ!』
「なるほど!」
トレイは、ぽむっと手の平に自らの拳を乗せた。
キャンディケインとは、杖型の飴で。クリスマスのツリーの飾りに使われたりする。
お菓子でお菓子を作ってしまう辺り、実にローズらしい。
自分の作ったクッキーを馬鹿にされている気分になった彼女は、トレイのクッキーにもあわよくばケチをつけてやろうと思ったのだが。
チラリと盗み見た彼の手によって生み出されたそれは、あまりにも美しいアルファベット。
言うまでもなく、付け入る隙がなさすぎたため。ローズは自分の作業に戻る他なかったのであった。