第10章 なんでもない日のパーティ
『リドル!待って、私も行く』
ローズは、カゴを持って森へ入るリドルの後ろ姿に声をかけた。
「構わないよ。ついておいで」
リドルは、カゴを持っていない方の手を彼女に差し出した。
素直にその手を取るローズ。
昨夜は雨が降り、地面が悪い。それを考えての事だろう。ローズが転ばないようにわざわざ手を握ってくれたのだ。
そのスマートなエスコート姿は、様になっているとローズは思った。
実際、この5年間で リドルは王子様度を増していたのだった。
『…カゴを持って、森の中で何をするつもり?
まさか…』
ローズの、訝しげな視線に答えるようにリドルは両目を閉じて少しだけ微笑んだ。
「勿論……ねずみを捕まえに行くに決まっているだろう?」
『っ、リドル!嘘って言って!』
焦る彼女を見て、満足げな表情を浮かべてリドルは答える。
「ふふ。嘘だよ。
これは 摘んだ苺を入れる為のカゴだからね」
まだ中身が空っぽのカゴに視線を落とすリドル。
『苺…、苺なのね!よかったぁ〜。
リドル、私嬉しい!』
大袈裟に喜んでみせるローズの手を引いて、リドルは少しだけ照れたように言う。
「…ネズミがいない事よりも、苺の乗っていないタルトがテーブルに並ぶ方が 由々しき事態だと思うからね」
自分の手を引いて、一歩先を歩くリドルの背中に ローズは
たしかに!と言って笑うのであった。
順調に森の奥へと歩いていく2人。
やがて、ローズが嬉しそうな声を上げた。
『あっリドル!ほら あそこ!苺がたくさん生ってるー』
「…本当だ」
リドルはいつも、不思議に思う事がある。
彼女と2人で苺摘みに出掛ければ、いつも必ずローズの方が先に苺を見つけるのである。
それは今日も例外ではなかった。自分の方が前を歩いているにも関わらず だ。