第10章 なんでもない日のパーティ
台所から、甘くて香ばしい香りが漂ってくる。
その匂いを嗅ぎながら、白薔薇を赤くしているのはデュースである。
彼はぺたぺたと白薔薇に赤いペンキを置いていく。
無心で作業をしていたが、やがて5年前の事を思い返していた。
「そういえば…5年前と今、まったく同じ状況じゃないか…?」
そう。あの日は、ローズを仲間に迎える為のパーティの準備中だった。
赤と白の薔薇を、半分ずつ用意したのだ。
そして、彼女といるのは楽しくて…つい 全部の薔薇を赤く塗るまで作業を続けていたい。などという考えに至った事を思い出した。
「…たしか、あの時 俺思ったんだよな…。
この地味で退屈な作業も悪くないって」
『あはは。 “ 地味で退屈 ” だって!デュースの独り言聞いちゃった!
リドルに報告しちゃおうかしら』
なんとも悪戯っ子な笑みを浮かべながら、ローズは背後から近づいた。
「…ローズ、その事は…その、僕達だけの秘密にしてくれないか」
デュースは、バツの悪そうな顔でそう答えた。
実はこの台詞は、5年前と全く同じ物なのだ。でもそんな些細な事を覚えているのはきっと、自分だけだろうと思っていた。
しかし
『…懐かしい。デュース覚えてる?5年前も私達、同じような会話をしたの』
「!!」
ローズは白薔薇を手に取りながら、自分の向かいの席に座った。
その光景を見て、デュースは心底嬉しかった。
彼女も自分と同じように、あの日の事を覚えていてくれた事に。
『…ふふ。本当に、懐かしい。
私達、あの頃から何も変わっていないのね。
同じような作業をして、同じような会話をして…』
ローズは懐かしそうに、そして嬉しそうに目を細めた。