第10章 なんでもない日のパーティ
ローズは、彼の好意を孕んだ言葉もするりと躱す。
トレイ達の気持ちを知ってか知らずか、それは彼等には分からない。
随分とストレートな物言いをしているにも関わらず、彼女はそれをまともに受け取った事はなかった。
ここ数年で、彼等とローズは心の距離を縮めたし、絆も深まっているのは間違いない。
しかし、誰かと特別な関係になったとか。真実の愛に辿り着いたとか。そういう発展は未だ無かった。
『私トレイの作るスコーン好きよ』
「……」
ローズは手際良く動くトレイに向かって、照れもなく言ってのける。
自分の作る菓子を好きだと言って、ローズが微笑んでくれる。
その笑顔を見ているだけで幸せな気持ちになって、今はこの幸せだけで十分満足……
「…菓子を作る “ 俺 ” 本体を好きになって欲しいもんだ」ぼそ
…など、全くしてはいなかった。
『え?何か言った?』
さきほどの呟きは、彼女には伝わっていない。
「……いや、なにも。
さぁお姫様?スコーンの付け合わせは何をご所望で?」
『クロテッドクリームとアプリコットジャム!!』
ローズはトレイの問い掛けに、全く間を空ける事なく即答する。
…そのキラキラした表情といったら。
トレイは情け無いとは思いつつも、ここまで愛されているスコーンとクリームとジャムに軽い嫉妬を覚えた。
またそれが、自分の手で作り出した物なのだから余計に始末に負えない。
「…了解。
じゃあ今回もローズの為に、たっぷりと愛情をかけて作りますか!」