第3章 距離
そして思い返してみて、茅野はふと気付く。
(でも、私
勝己に助けられてばっかりで
なにも返せてないなぁ。)
あれは確か
小学校生活にも少しずつ慣れてきた、小1の夏あたり。
いつものように勝己と三人で帰っていた日、上級生と私が思いっきりぶつかって、体格差のせいかよろけて転んでしまった。
無視して笑いながら去っていく上級生二人に、
勝己は走っていって、謝れ、と掴みかかった。
そのまま喧嘩になってしまい、私は止めたものの勝己の怒りは収まらず
結局勝己は上級生二人相手に勝ってしまった。
『一年のくせに!!』
『よっちゃんに言いつけたる!!』
覚えてろ!!なんてお決まりの悪役の台詞を吐いて逃げた小4二人に、
勝己は涙目で鼻をすすりながら
『いちばんすげぇヒーローは、
最後に必ず勝つんだぜ』
と
強く、言った。
『勝己!!ごめんねっ、私が避けられなくて転んじゃったから…!!そのせいで…!!』
泣きながら飛び付いた茅野を、
抱きしめ返して
『そういうのどんくさいって言うんだぜ
…ヒーローになるなら、直さねぇと』
と笑って頭をぽんぽんしてくれた。
その優しさに、余計に泣きじゃくる私を
呆れた顔をしながら
茅野は悪くない。
だから、俺が勝ったんだ!!正義のヒーローだから!!
なんて言って慰めてくれた。
(…小学1年生のくせに、
なんでこんなに大人びてて
かっこいいんだろう)
茅野は勝己のその優しさと強さを改めて、身近に知ったのだった。