第9章 君のヒーロー
誰もいない、校舎裏の森へ来ると
二人は向かい合った。
久しぶりの感覚に、なぜが違和感と、
安心感が二人を包んだ。
『急に、ごめんね。
だから何だ、ってなるかもしれないけど
私の話、聞いてくれる??』
指先が、何故か少し震えている。
それを隠すように、ギュッと握りながら
少し微笑んだ。
「…あぁ。」
『私はさ、
焦凍がどんな個性だろうと、何をしようと…
焦凍は焦凍だから
好きだってことに変わりはないよ。
これだけは、一生、何があっても変わらない自信が、あるんだ』
焦凍が、ハッとしたように楓風を黙って見つめる。
『中学のとき、勝手に黙って離れてごめんね。
私、自分のことしか考えてなかった。
それで今更、ましてやヒーローになろうなんて、最低だよね。
…でも、それで諦めたら、いつまでも弱いままだと思うの。
だから、自分のためにも、焦凍のためにも。
お節介は承知で、言わせてね。
私も、焦凍みたいにさ…
焦凍の、ヒーローになりたいんだ』
「楓風…」
静かに、確かめるように名前を呼ぶと、一歩、近付いた。
『焦凍は、焦凍の個性は
お父さんじゃ、ない。お父さんの物じゃ、ないんだよ!!
今、焦凍にあるのは紛れもなく、焦凍のものなの!!
自分がなりたいものに、なっていいんだよ!!』
轟は、楓風と母の姿が重なったように見えた。
楓風の言葉は、耳に、頭に、
そして心に響いて
涙が、一粒
溢れた。