第7章 恐怖
バキ、バキと骨を軽々しく折る音が聞こえる。
「個性を消せる…
素敵だけどなんてことはないね…!!
圧倒的な力の前では、つまり無個性だもの」
(先生はきっと、個性を消してる。素のパワーが、あれ…なんだ!!)
楓風は、唾を飲み込んだ。
ぐしゃ、という音とともに、相澤先生の苦痛に歪む声が聞こえた。
「緑谷、成瀬、流石に考え改めただろぉ…?」
恐怖にガタガタと震えながら涙を浮かべていう峰田。
「ケロ…」
いつでも冷静だった娃吹も、口元まで水に浸かって怯えている。
敵の方は、ワープの個性である黒霧が来て何かを話し始めた。
「13号はやったのか」
「行動不能には出来たものの、散らし損ねた生徒がおり…
一名逃げられました」
「はぁ…黒霧、お前がワープゲートじゃなかったら粉々にしてたよ
流石に何十人ものプロヒーローには敵わない。
今回はゲームオーバーだ。
帰ろっか」
応援が来ることをしった敵は、驚くほどあっさりと退くと言った。
(…は??ゲームオーバー?帰る??今回は…??)
「今帰るって言った…??」
「そう聞こえたわ」
喜ぶ峰田達だが、楓風はそれどころではなかった。
(こんな…ことして、こうもあっさりと帰るなんて!!)
『…あ、りえない…。
負けたくないからって逃げるなんて、最低すぎる…。
気味が悪いよ…!!今回は、って何!?また来るつもりなの!?』
わなわなと震えだす楓風。
「確かに気味が悪いわ…」
意味が理解出来ずにいると、崩壊させる個性の敵がこちらを向いた。
「けどもその前に、平和の象徴としての矜恃を少しでも」
(来る…!!!!!!)
「へし折って帰ろう!!」
物凄いスピードでこちらに近付き、娃吹の顔を掴もうとする敵。
(…お願い…!!!誰も、傷付いて欲しくない…!!)
咄嗟に楓風は、娃吹の前に空気の壁を作った。
楓風の個性は空気を圧縮して壁を作るため
空気を崩壊させることが出来ないように、空気で出来た壁は崩壊させられない。
敵は壁にぶつかると、
「…いい個性持った餓鬼だなぁ」
と言ってニタリ、と笑い
今度は娃吹達より手前、自分の真横にいる楓風に掴みかかった。
ただでさえ回りにくくなっていた頭が、恐怖で余計に回らない。
奴の五指が
顔に触れた。