第1章 真夏の旅人
あと、数センチ。
もう数センチで、奴の頭に当てれたはずの棒を、白刃取りのように抑えて私の目前に立つ男は、「はーい、そこまでだ…」と、気の抜けるような優しく低い声で私に話しかけてきた。
コイツもまた、顔を隠している。
いかにもいかつそうな白銀の髪を靡かせているのにも関わらず、片目しか見えないよう、布でしっかり顔が覆われていて、それは顔の面積3分の1見えているかいないか程。
『っ!!!なんなんですか?!?! 私を捉えて身代金でも獲るつもり?! 残念やけど、私には身内は1人もいてないんやからそんなの無駄…』
「身代金?なによ、それ。 どうみても怪しいのはそっちでしょ。」
『…はぁ?!』
さきは、驚きや興奮、恐怖や焦りなど色んな感情をそのまま胸に、とにかく大きな声で怒鳴った。
(私が怪しい?いやいやいや。どうみても顔の見えないそちらさんでしょーが!)
すると白銀の髪の男が、やれやれと息を吐いた。
「ま、よく分からないケド、ひとまず俺と一緒に里長に会いに行ってくれるかな? 話は全てそこですることにしてさ。」
『何も話すことなんてない!!私のことどうするつもり?!』
絶対ヤ○ザか何かだと思い込んでいるさきは、大人しくこんな怪しい人の言いなりになんてならないぞ、とばかりに必死に声を荒らげた。
「落ち着いて…ホラ、オレはキミと争うつもりはないから」
彼は両手をヒラヒラとさせながら頭の位置まであげ、さきの持っていた棒は行き場を失う。
なんなんだ…と思っていると、グラッと目の前が揺れ、突然暗転した。
木ノ葉隠れの暗部と名乗った者に背後を取られ、手刀で気絶させられたのだ。
「ふぅ、ありがとね。…さて、ちょっと手荒になっちゃったケド、ひとまず火影様の元に連れていくか。 あ、君たちは着いてこなくてもオレ一人で大丈夫だから。」
男は暗部たちにそう言い、素早く無駄のない動きで、手足が動かないようワイヤーでさきを縛り上げた。
そして、スっとさきを落とさないようしっかりと抱え、立ち上がったかと思えば、煙のように一瞬でその場から消え、夕陽色に染まった“木ノ葉隠れの里”の屋根の上を駆け、火影邸へと向かった。