第72章 mew
『ぎゃっ!!…い~たたたた…何なんよもう~』
思い切り尻もちをついたさきは、座り込んだまま自分の腰をスリスリと摩る。
自分で言うのもなんだが、相変わらず可愛くない小枝。
さきは口寄せの術を使った直後、突然煙に包まれたかと思うと、先程までいた猫バアの家から姿を消してしまった。
辺りはとても暗い。
目の前に続く長い階段にはポツポツと灯りがともされてはいるが、それもあまりに心許ないものだ。
『ここ……何処…?』
自分が使ったのは口寄せの術のはずなのに、なぜか体が移動している。
頭が現状についてこなかった。
しかし、そういえば…
(なんか術を使うときにカカシが何か言ってたような…)
そこで漸く思い出した。
口寄せの契約が結ばれていない状態でチャクラを練るな、時空間忍術の一種だから何が起こるかわからないから…と、あまりに遅すぎるタイミングでのカカシからの注意の言葉を。
『遅すぎるよカカシ~…どうしよう何が起きた?私…どっか飛んできちゃったってこと?』
よっこらしょと立ち上がり、暗い階段を恐る恐る忍び足で登ってゆく。
特に今の所どこかに繋がる道はなく、ただ只管に長い階段のようだ。
(どこに続いてるの……?)
あまりに悪すぎる視界の中、じっと目を凝らして先を見る。
すると、出口のようなものが僅かに見えた。
そしてさらに奥には、青白く光るかなり巨大な簾のようなもの。
さきは感知タイプではないが、しかしそこに大きなチャクラが存在していることがハッキリと手に取るように分かった。
敵…?と考え、はたと気付く。
『え、待って。…私が外部の人間やし…この状況、どんな相手でも私が悪いし敵やん…?』
独り言もそこそこに、徐々に歩みを進めると、ぼんやりと見えていた簾の目の前までやってきた。
簾はとても大きい。
―――もし万が一、命を狙われでもしたら一番に謝ろう。私が悪い。よし。
そう心に決め、簾の奥のチャクラの主に向かって声を掛けようとした、その時。
「ニャ―――…ニャニャーン?」
内臓を震わせるような重く低い猫の鳴き声がした。