第69章 予選開幕-5-
ヒナタは息も絶え絶えに必死に言葉を紡いだ。
「ネジ兄さん…私には見えるもの…私なんかよりずっと…宗家と分家という運命の中で…迷い苦しんでいるのはあなたの方…」
ネジは途端に目の色を変えて、立っているのがやっとの状態のヒナタに襲いかかった。
カカシ、紅、ガイ、さき、そして審判のハヤテはネジの攻撃を強制的に止めるべく場内へ降りた。
全員がネジの動きを封じる形をとる中、さきはネジに背を向けるようにしてヒナタを庇い、抱きしめるような体勢を取っていた。
ヒナタはさきの胸に体を預けた直後、勢いよく血を口から吐き出した。
その様子から、紅はヒナタが心室細動を起こしているのではと推測する。
さきは辛うじてある知識の中から、パッとAEDの存在を思い出した。
ヒナタをそっとその場に寝かし、
『AEDはどこ?!』
と叫んだものの、しかしそんなものがこの世界にまだ普及しているわけもなく、周囲からは自分がまるで意味不明なことを言っている人間かのように困惑の目を向けられる。
病気などに全くの知識が無いさきでも、心室細動がヤバいということくらいは知っている。
こんな自分でも知っているからこそ焦った。
こういう時にこの世界の不便さを痛感する。
医療班はモタモタしてなかなか担架を運んでこないし。
『ヒナタ!!しっかりっ!』
「医療班は何してる!早く!!」
さきと紅の叫ぶような声に煽られ、漸く担架を運んできた医療班。
わずか12,13歳の子供がこんな危ない状況にいることに気付いたのは、やっとヒナタのそばに駆け寄ってきてからだった。
「まずい…このままでは10分ともたない!緊急治療室に運ぶんだ…急げ!」
『私もついていきます!!』
なんだかもう、この医療班の人たちの手際が悪すぎて黙って見ているだけだなんて絶対出来ない…!
ぱたぱたと小走りにヒナタを運ぶ彼らの後ろを、さきは一人ついていった。