第68章 予選開幕-4-
誰よりも先に、迷いなく攻撃を仕掛けたのは本物のキバだった。
「ヒャッホーッ!」
楽しげな発声と共に、思い切り殴られるキバの姿をしたナルト。
―――ああ、やっぱりバレちゃうか…と、さきが彼の作戦の失敗を嘆いていたその時。
ボン!と軽快な音を立てて、倒れたキバの変化が解けた。
『…え!?』
そこには、変化が解けたナルトの姿ではなく、主人に殴られた赤丸が伸びていた。
普通に考えれば犬塚家の人間が、自分の相棒のニオイを間違えるはずがない。
(なのにどうして…ナルトくんじゃないの?)
あろうことか、自分の最大の味方である相棒を攻撃してしまったことで平常心を失ったキバは、続いて自分の背後に立つ“自分と同じ姿”を力いっぱい殴った。
思い切り飛ばされた“自分と同じ姿”の体は、受身を取ることさえも出来ず、地面に投げ出された。
ボン!という音とともに“ソレ”の変化が解ける。
そこにはまた、赤丸が同様に伸びていた。
『……なるほど!』
「ま!元イタズラ小僧の発想だな…」
『確かに…元、やね』
キバに最初に殴られたのは、間違いなくナルトだ。
二度目に殴られたのは、赤丸。
つまりキバは正しい判断をしたにも関わらず、ナルトの変化の術によって騙されてしまったのである。
“変化の術”を解いたナルトは赤丸の姿から自身の姿に戻り、キバの背後を見事に取った。
そしてそのままキバの顔を容赦なく蹴り上げた。
「術はよく考えて使え!だから逆に利用されんだってばよ!バーカ!!」
どこか聞き覚えのあるセリフに、さきは思わず吹き出した。
『ふ、ふふふ…ナルトくんも言うようになったねカカシ?』
「ハハ…」
それは最初の鈴取りの試験を行った時、カカシがナルトに向けた言葉。
(あの時からこんなに成長してるなんてね…)
さきは嬉しさのあまり、零れる笑みを隠すことができなかった。