第64章 通過者と棄権者と
「何度か見る顔じゃな。」
火影様が口を開いた。
「確か前回も本戦で途中棄権しとったが…いったい何を考えとるんじゃ」
さきの心の内を代弁するかのようなその言葉に、アンコも手元の資料をパラパラと確認し始めた。
「薬師カブト。データでは…6回連続不合格です」
「どういう経歴じゃ」
アンコが説明したその経歴からは、特にこれと言って目立つ戦歴や任務をこなしたという業績は見られなかった。
ただ、彼は元々生まれが木の葉の里だった訳ではなかった。
カカシやアンコも幼くして経験した第3次忍界大戦の、桔梗峠の戦いで木の葉の医療忍者が里に連れ帰った、敵側の生き残っていた少年…それが薬師カブトだ。
クイと押し上げられるメガネの奥の目は、いつも本心が見えず、どこか気味が悪い。
さきは眉根をひそめてその様子を見つめた。
(やっぱりなんかやな感じ…って…別に何かされたわけでもないのに、私の性格が悪いだけ?)
さきが若干の自己嫌悪を覚え戸惑っている中、ハヤテが口を開いた。
「辞退者はもういませんね ゴホッ…」
その言葉に、サクラが動いた。
ここからでは彼女の声を聞くことはできないが、サスケの身体を案じて、試合を棄権するようすすめているように見える。
サスケはこの数分の間に、何度かの痛みの波が襲ってきていたようだが、肩を押さえて苦しむ間隔が、だんだん短くなっているようにも見えた。
「やはりな…」
火影様はサスケのその様子に驚く様子もなく、寧ろ自分の目で呪印を施された事実を見たことでどこか納得したような、落ち着き払った声でつぶやいた。