第56章 花ノ村
『この村はとても綺麗な所ですね… こんなに沢山の花が一度に見られるなんて思ってませんでした』
窓の外を眺めながら、和やかに目を細める。
さきは淹れて頂いていたお茶を口に含むと、その美味しさにも驚いた。
『えっ…美味しい』
さきの分かりやすい反応に、村長は口元を抑えて笑った。
「花に興味がおありですか?」
『あまり詳しくはないですけど、家でも少し育てていて…好きですよ、お花』
脳裏に、先日ベランダに咲いた月下美人を思い浮かべた。
あの香りの正体にすらなかなか気付けないほど、浅い知識しかない自分だが、花が好きなのには違いない。
村長はさきの返答に、とても嬉しそうに微笑んだ。
そして、ここの花は有名なものから珍しいものまで何でも揃っていて、花だけでなく草木もとても豊富なのだ、と…それは誇らしげに話してくれた。
さきは相槌を打ちながら、一口、もう一口とお茶を口に含んだ。
なんだか独特な味わい。
幾つかのハーブティーをブレンドしたような…そんな感じ。
凄く落ち着く味と香りだ。
(そう言えば、そんなに詳しいんだったら、あの御神木のことも何か知ってたりするのかな…)