第53章 月下美人 *
「……さき」
『ん?』
「キスまでしかしないよ?」
『ふふ……うん』
今度は、月明かりが差し込む少し固めのベッドの上で、幻術なんかよりも優しく、ゆっくりと唇を重ねた。
それはたぶん、今までで一番、気恥ずかしくなるくらい甘やかすように優しくて、何かが崩れ落ちてしまいそうになるキス。
『っふ…ん……んん…』
呼吸のために唇を離しては、鼻先を擦り合わせて「もっと」と強請り、途中で目が合っては、額と額をくっつけてさらに距離を縮めた。
「えー?まだ甘え足りないの?」
『はっ?…たっ…足りてるからもうだいじょ……』
「まーまーそう言わずにね……」
…何度も甘い波に飲まれる二人。
部屋いっぱいに広がっていた月下美人の甘く気持ちの良い香りは、徐々に薄れていった。
――――――ふー。
オレも少し調子に乗りすぎたかな?