第53章 月下美人 *
「あーーー…長かったっ」
『ふぁーーやっと我が家やねー』
長~い波の国での護衛任務が終わり、今から1時間ほど前に班員と解散した後、二人はそろってその足で慰霊碑へ立ち寄り、そして今しがたおよそ1ヵ月ぶりに帰宅した。
部屋の小さな時計の針は夜の七時前をさしていたが、まだ辺りはじゅうぶん明るくて、子どもが外でボールを追う楽しそうな声も聞こえる。
もうそろそろ、本格的な夏になってきたということだ。
久しぶりに入った二人の部屋は、熱気と湿気が籠っていて一言で言うと、あつい。
これに尽きた。
『窓、開けよ?!』
「ああ、賛成…」
夏が好きなさきではあったが、一か月もの間留守にしていた部屋のそのモワンとした空気の不快感に、たまらず荷物を背負ったまま各部屋の窓を開けていった。
窓を開け終えたさきは、荷物を床に雑に下ろして、洗面台へ向かう。
緑色のじょうろに、ザッと大量の水を入れ、タプタプとさせながらベランダへと急いだ。
その一番大きな窓の外には、大切な花のプランターが、この暑い夏空の下、さきたちの帰りを待っていた。
『何日もずっとごめんなぁ…暑かったね…』
幾つかの葉は茶色くカサカサになってたものの、木の葉の里では雨が降ったのだろうか。
さきの心配とは裏腹に、案外みんなしっかりとしていた。
「枯れてない?」
『うん、大丈夫そう!』
「ならよかった」
さきの後ろから声をかけるカカシは、額当てをシュルリと解き、その下に滲んだ薄い汗を手の甲で拭った。
そしてふー、とため息をひとつ付き、「今日は出前でもとろっか」と笑顔になった。
『そうやね…ちょっと疲れたしね』
さきも笑顔でそれを快諾した。
部屋には、ジャスミンのような優雅で心地よい香りが流れ込んできていた。