第1章 甘い?甘くない?……やっぱり、甘い
申の刻。
「行くぞ」
師範は隊服から着物に着替えて、いつもの羽織を羽織っている。首には安定の鏑丸さん。
「すみません時間が掛かってしまって」
髪型のセットに時間が掛かってしまった。
慌てて下駄を履いて、待ってくれている師範の元へ急ぐ。
「慌てる必要は無い。転んだらどうするんだ。せっかくの着物も汚れるし、時間を掛けた髪型も崩れてしまうぞ」
師範が眉間に縦ジワを作ってそう言うものだから、呆れられてしまったと落ち込む。
「はい、すみません……」
「怒ってはいない。落ち込むな」
今度は眉尻を下げて私の頭に手を置く師範。
鏑丸さんがチロチロと赤い舌を出して、私の頬を舐めた。
「おい鏑丸。が驚くだろう。」
「慰めてくれたんですか?鏑丸さんは優しいですね」
私が鏑丸さんを指先で撫でると、師範が面白くないといったようにくるりと体の向きを変える。
「俺もちゃんと慰めた」
ボソッと師範が呟いた言葉は、他に喧騒もないこの場所では綺麗に聞き取れてしまって。
「はい、分かってますよ師範。師範も優しいです」
私の言葉に頬を染める師範がなかなかに可愛かったので、今度蜜璃ちゃんとしのぶちゃんに教えてあげようと思う。