第2章 失いたくないあなただから
「し、師範脱ぎました?」
「ああ。」
「じゃ、じゃあ私も脱ぎますけど、絶対振り返らないでくださいね!」
「……ああ。」
なんでそこ即答じゃないんですかね!
師範に背を向けていそいそと隊服を脱ぐ。
一糸まとわぬ姿になり、バスタオルを体に巻き付ける。
「できたか?」
後ろから師範に声をかけられ、
「は、はい」
と返事をするがその声が震えていて情けない。
「。何も取って食おうなぞ思っておらん。お前のことは大事にしたいし大事にする。いきなり襲うことはしないから、怖がるな」
ああ。しのぶちゃんに変なこと吹き込まれたけど、師範はただ、私を大事にしすぎてるだけなんだ。
今だってこの程度で震えている。
そんな私を、師範は見抜いて手を出してこなかっただけだ。師範の優しさなんだ。
「っ、もう、大丈夫です師範。
……いえ、伊黒、さん。」
「……また、名前を呼んだな」
声だけで分かる。師範がとても嬉しそうだと。
『名前で呼び合うのは親愛の証とも言いますしねぇ……。』
しのぶちゃんの言った言葉が脳内で再生された。私が師範を好きだと、ちゃんと伝わったのだろうか。
「ならば早く入るぞ。体が冷える。」