第2章 失いたくないあなただから
「胡蝶、の容態は……?」
「さんは捻挫ですよ」
「……は?捻挫……?」
師範が抜けた声と共に、顔までポカンとしている。これは所謂アホ面と言うやつだが、師範の場合全くアホそうに見えないのが不思議である。
「えっとですね師範……鬼の頸を切った瞬間足を滑らせてしまってですね、その、捻挫です。」
なので、命に関わるような怪我は何も……!と付け足すと、師範がズルズルと顔を片手で覆ったまま崩れ落ちた。
「ハァーーーー。」
「し、師範……?」
流石にドジが過ぎて飽きられてしまっただろうか。師範に捨てられたら私は生きていけない。
師範はのそりと立ち上がると、ふわっと私を抱き締めた。
「よかった……捻挫で。お前にもしもの事があったら俺は生きていけない。頼むから俺より先に死なないでくれ……」
「……っ!」
貴方がいないと生きていけないのは私の方だ。
貴方が私を継子にしてくれたから、私は戦えた。戦い方を知った。
そして、人を愛することの喜びも。
貴方がいなければ何一つできなかったこと。