第2章 失いたくないあなただから
「どうして伊黒さんのこと、名前で呼んであげないんです?」
「え……。だって、ずっと師範って呼んでたし…今更そんな、い、いいいい伊黒さんなんてっ」
「苗字でなくお付き合いされてるなら名前では?」
「ええええええ!?おおおお小芭内さんなんて絶対言えないよぉっ!」
私は顔を真っ赤にして両手で顔を覆う。
手の隙間からしのぶちゃんを覗き見ると、
なんともまぁ楽しそうにニヤニヤしているではないか。
「しのぶちゃん!」
揶揄われたことがわかって、頬を膨らませながら名前を呼ぶと、笑いながら謝られた。
そりゃあ私だって付き合って二月経つし、名前で呼ぼうとしたこともあったけど…。
やっぱり師範を前にすると恥ずかしすぎて名前呼びなどとんでもない。それに師範だって私の事をって呼んでるし、特に変わらないのだ。