第9章 さよならの定義
『私は死ぬまで"呪術師"だ。例えその道の先にあるのが絶望に塗れた地獄だろうと。自分の意思で、呪術師になるという地獄を選んだ。"自分らしく生きていけない"世界なら、いっそ死んだほうがマシ。だから私は、傑と一緒には行けない。傑、お前もそうだろ?お前は、"呪術師"として、"自分らしく生きていけなかった"んだろ』
「……ああ。その通りだ」
夏油はなまえの真っ直ぐな瞳を見つめながら、どこか困ったように笑った。
「…はは、やはり駄目だったか。私達は似ていると思ったんだけどね。その言葉の理由の根本はその固い信念か、お兄さんの夢か…それとも、悟か?」
『全部だよ。…ねえ、傑。悟は1人で前に進んでいったんだと思ってるだろ?それは違うよ。1人でいい人間なんていないんだ。傑、お前に新しくできた守りたい家族がお前の側にいてくれるように、私は悟の側にいる。人間は、誰だって1人じゃ駄目なんだ。最強だからって、隣に誰もいないのは寂しいよ。あいつは死ぬほど寂しがり屋なんだ』
「悟が羨ましいね」
ぽつり、とそう言ってから、夏油はほんの少しだけ、寂しそうに微笑んだ。
「なまえ、君は私たちに救われたと言ったね。私は、君の言葉に救われたよ。どうか、これからもそのままの君で」
夏油の優しい声音に、我慢していたものが溢れ出しそうになる。こみ上げてくる感情を必死に押さえ込むように、最後の足掻きとでも言うように、なまえは彼の名前を呼んだ。三年間、当たり前に呼び続けていたその名前を。
『……、っ傑!』
「泣くなよ。最後くらい、格好つけさせてくれ」
『っ…ばか……ばかっ!全然かっこつけられてねーよっ』
遠くなっていく背中。
あんなに近くに在ったはずなのに、もういくら手を伸ばしても届く事はない。