第9章 さよならの定義
『……随分元気そうじゃん。前に見た時よりずっと』
「そう見えるなら、そうなんだろうね」
夏油の答えになまえはしばらく黙ってから、口を開いた。
『…ねえ、一応聞くけど、冤罪だったりしないよね?』
「さっき硝子にも同じ事を聞かれた。残念ながらないよ」
『……そう』
聞きたくなかった、分かっていたはずの答えなのに。いざ本人からこんなふうに言われてしまえば、なんだかもう笑うしかないくらいいっそ清々しかった。そんななまえをじっと見つめながら、夏油は続けた。
「術師だけの世界を創るんだ」
『…術師だけの世界、ね。で、今ここにいるのは偶然って訳じゃないんだろ?硝子にも会ったみたいだし』
「直に悟も来るだろう。運試しってところかな」
『運試し?何の』
なまえがそう問えば、夏油は微笑みながら答えた。
「私と一緒に来ないか」
夏油の言葉に、なまえは一瞬目を見開いた。そんななまえを見つめながら、夏油は続ける。
「いつかなまえは私に言った。守りたいものを守ると。その中に私はいたんだろ?」
『……いたよ。いるさ。ムカつく事に、今もまだ、ね。目の前に処刑対象の呪詛師がいるってのに、体が動かないんだ、クソムカつくよ、ホント』
なまえは投げやりにそう言ってから俯き、はあ、と小さくため息を吐くと、顔を上げた。
『答えなんて聞かなくてもわかるだろ』
「…さあ、どうかな」
『傑。どうして親まで殺した。術師じゃないからか?』
「親だけ特別というわけにはいかないだろ。それにもう私の家族はあの人達だけじゃない」
『………』
"私の家族はあの人達だけじゃない"
その言葉に、今、夏油は1人じゃないんだな、なんて安堵している自分に少し驚いてから、なまえはぐっと拳を握りながら続けた。