第7章 不協和音
『……、何言って――』
「マジで。さすがに詰みかなって思った。でも死際で掴んだ。呪力の核心」
『…反転術式?使えるようになったの?』
「うん。首チョンパされてたらヤバかったけどね」
『…やめてよ、縁起でもない』
まだ残っている血の匂いが、その生々しさを物語っていて。なんだか酷く怖くなって、なまえは思わず五条の制服の裾をぎゅ、と握った。
『無茶しないでよ、ばか』
そう言えば、抱き締められた腕に力が入るのを感じる。
「…会いたかった。おかえり」
ぽつり、とそう言った五条の声に、何故だか妙に胸が苦しくなって。
いつもならば、放せよ、なんて言って払う腕も、その時は振り払う事なんて出来なくて。
『……ただいま。よく頑張ったね。お疲れ様、悟』
ろくな言葉を掛けてやれない自分に苛立ち自嘲したように苦笑してからなまえは、五条の気が済むまでずっと、その腕に抱かれていた。
その後、なまえは不在だった数日間に起きた出来事の大凡の概要を硝子から聞かされた。
五条と夏油が護衛を任されていた星漿体の少女は死亡。けれど、もう一人の星漿体がいたのか、既に新しい星漿体が産まれたのか、どちらにせよ天元は安定しているらしい。
なまえが高専に戻った時、筵山麓の入り口には、其処で行われた戦闘の痕跡がまだ痛々しく残っていた。
この日を境に、何か大事なものが零れ落ちていくような気がした。失われているものが何なのか、それはわからなかった。重要なものほど目には見えない。―――特に、失われる時は。