第6章 りんどうの唄
こめかみを押し付けるような、冬の森厳な沈黙に包まれていた。
長いこと墓石に向かって合わせている手は、寒さで悴んでいる。もうほぼ感覚のなくなった手を擦り合わせるようにして、なまえは小さく息を吐いた。白い息が浮かんで、そっと消えていく。
『今日は一段と寒いね、お兄ちゃん』
もう、帰ってくる事のない人。
『私、呪術師になったよ。お兄ちゃんの夢を、きっと叶えるから――』
もう、返ってくる事のない返事。
『……叶えられる…かな?』
なまえは体を震わせながら、瞳の奥からこみ上げてくる涙を堪えるように墓石に問いかけた。
返ってくるわけもない、答えを期待して。
「―――叶えてやるよ」
返ってくるわけのない答えに、なまえは思わず目を見開いて、慌てて声のした方へ振り返った。
『……五条?』
そこには、こんなに寒いのに上着すら羽織っていない黒づくめの制服姿の五条が立っていて。
『……なんでいるの?』
「夜蛾に聞いた」
簡潔にそう答えた五条はなまえの隣に来ると、ポケットから取り出した線香の袋を開け、線香に火をつける。そして、墓石に向かって手を合わせた。そんな五条に向かって、なまえは小さく問う。
『……だからって、なんでわざわざこんなところまで来たの』
閉じていた瞳を開けて、五条は墓石を見つめながら答えた。
「今日すげぇ寒いじゃん」
『うん』
「なんか、なまえが泣いてる気がして」
『………』
五条の言葉に、なまえは驚いたように目を見開いてから、くすっと笑った。
『泣いてねーよ、バーカ』
笑ってそう答えたなまえに、五条は一寸の間を置いてから続けた。
「ずっと聞きたかったんだけどさ」
『……うん』
「なんでそんな”最強”に拘んの?」
五条の問に、なまえはきゅ、と口を噤んでから、墓石を見つめた。しばらく二人の間に沈黙が流れて、ひゅう、と吹いた風が二人の髪を揺らした。
『長くなるけど聞く?』
「うん」
当たり前、とでもいうように即答した五条に、なまえはゆっくりと自分の過去を話し始めた。