第6章 りんどうの唄
何度電話を掛けても、繋がる事はなかった。電源が入っていないためお繋ぎすることができません――そのアナウンスを、今日何回聞いただろう。五条はなまえの名前で埋まった携帯電話の発信履歴を、意味もなくぼけっと見つめていた。
硝子も夏油も、なまえが休んでいる理由は聞かされていないらしい。なまえが高専に入学してから半年。彼女が休んだ日は今まで一度もなかった。クラスメイトがたかが一日休んだくらいで、なんだというのだろう。人には他人に言えない事の一つや二つあって当たり前だ。ましてや呪術師になる人間なんて特に。無論理解はしているし知りたいという気持ちも更々ないけれど、五条にとってそれがなまえだと話は180度変わる。
それに、何故だかわからないけれど。
彼女が、この寒空の下のどこかで一人、泣いている気がした。
「ねぇ、なんの用事でいねぇの?」
午前中の授業を終え、昼休み。職員室から出てきた夜蛾に、五条が問う。今日何度目かわからないその質問に、夜蛾は呆れたようにため息を吐いた。
「だから何度も言っただろう。家の用事だ」
「家の用事って何?親に何かあったとか?」
「いや、そうじゃない。心配する気持ちもわかるが、とにかく、心配するような事ではないから大丈夫だ、安心しろ、悟」
「いいから教えてよ」
あまりにしつこい五条に夜蛾が言葉を詰まらせていれば、五条はぼそりと続けた。
「なんかさ、今日どっかでアイツが、一人ぼっちで泣いてる気がするんだよね」
五条の言葉に、夜蛾はサングラス越しに目を見開いた。
いつもじゃ考えられないような真剣な表情の五条に、夜蛾はため息を吐いてから、小さく口を開いた。
「……墓参りだ」
「誰の?」
「今日はなまえの――お兄さんの命日なんだ」