第17章 残響のマリオネット
―――あの時の約束を、一度は破ってしまったけれど。結局自分は、今、こうしてここに立っている。厄介な“約束という名の呪い“にかけられて。
一度この世界から逃げ出した自分にとって、この世界を根本から変えようとしている、五条悟となまえは。
「…眩しすぎるんですよ。貴方達はいつだって」
過去に思いを馳せるなんて、酒のせいだろうか、それとも今日の仕事のせいだろうか、どうやら自分にも彼女と同じく、センチメンタルになる瞬間があるようだ。自嘲するように薄く笑えば、なまえは嬉しそうに笑いながら答えた。
『お前の髪もいい感じに眩しいぞ?金色でカッコいい』
「……はあ」
センチメンタルな瞬間を一瞬でぶち壊すこの先輩に、七海は小さくため息を吐いた。こう言うところは、五条にそっくりだ。
『七海は昔から私達といるとため息ばっかりついてるよなぁ。そんなため息ばっかついてるとハゲちゃうんだぞ』
「思考が子供」
『良き先輩に向かって失礼な』
「自分で言いますか」
『なんだよ、良き先輩じゃなかったのかよ』
むすくれた顔で言うなまえに、七海はもう一度深くため息をついてから、小さく口を開いた。
「……尊敬していますよ。まぁ、ひとつを除いて、ですけど」
『おお。七海にそう言ってもらえるなんて、嬉しいな。でも、手放しには尊敬してくれないのか』
「そうですね。あの人の妻という時点で論外です」
『はは、よく言われる』
そう言って笑いながら、なまえは七海を真っすぐ見つめると、改めて言った。
『七海、ありがとうな。悠仁を頼むよ』
―――"もう、誰も失わないように"
彼女の言葉が脳裏を過ぎる。あの言葉のあと、彼女は何度も失った。それでもここに立っている。進むべき道へと導く光のような、それはそれは眩しい笑顔で。いつだって。