第17章 残響のマリオネット
―――数日後。
「―――なまえ!!起きて起きてー」
空から降ってきたような軽い声。
耳元で聞こえるそれに、重たい瞼を無理やりこじ開けた。ぼんやりと視界に映るのは、サングラスに、黒づくめのラフな私服を着込んでいる五条だ。この時期にしては少々暑そうな格好に、なまえは寝起きのぼんやりとした頭をゆっくりと働かせながら口を開いた。
『朝からうるさいな……ていうかなんだその格好』
「もう準備は終わったから、後はなまえが着替えるだけだよ。ちゃんと替えの下着もいれたし、なまえが愛用してるシャンプーとトリートメントに化粧水シリーズまで完璧に入ってるよ」
五条は右手に引いている小さなキャリーケースをばんばんと叩きながら、偉そうに言った。
なまえには、彼の言っていることがよくわからなかった。否、普段から彼の言っていることを理解しようとする方が無理な話であって、9割方流しておけばいいどうでもいいようなくだらない話ばかりなのだけれど。そんなことを考えながら時計を見てみれば、朝の5時半だ。流石にこの時間に、この冗談はキツい。
『旅行ごっこでもするつもり?それならお一人でどうぞ』
「ごっこじゃないよ、正真正銘楽しい楽しい北海道旅行だよ、with七海」
『はいは…………は?』
"七海"という言葉に、再び布団にくるまろうとしていたなまえは飛び起きた。
七海建人―――優秀な一級呪術師であり、五条となまえの高専時代の後輩にあたる人物である。
『ちょっと待って、七海?北海道?』
「うん。行くでしょ、札幌の旅!」
平然と頷いた五条に、なまえは唖然とした。七海のスケジュールを把握しているわけではないけれど、少々気になる案件で北海道まで出張にあたると小耳に挟んでいた。昔から彼を知っているなまえにとって、一時は呪術師を離れていたけれど、今こうしてまた戻ってきてくれたことに心底感謝しているのだ。七海は基本的に五条とは真逆の性格なので、昔から五条に振り回されてうんざりしているのを見てきている。そんな五条が出張についてくるなんて、ストレスで彼の胃に穴が空いたらどうしようと心配になってしまうレベルだ。