第1章 もしも運命があるのなら
「でもね、みかにはるかって妹がいるの。まだ小さくて、お父さんとお母さんがもういないってことも全然わかってないんだよ。みかの身体が弱いことも、全然わかってないんだよ。みかお姉ちゃん、みかお姉ちゃんって、いつもみかの後ばかりくっついてきて、甘えてばっかりで」
『……うん』
「みかだってホントは甘えたいのにって、いつもどっかで思ってた。もうこのまま病気で死んじゃえたら楽なのにって。そしたら、るかは一人ぼっちになっちゃうのに。るかのこと、全然考えてなかったの。たった一人の妹なのに。でもね、今日、お姉ちゃんがずっと手を握ってくれて、守ってくれて、助けてくれて、みかもこんな風になりたいって思った。だってみかは、るかのお姉ちゃんだから……。病気なんか治せるくらい強くなれるかな?お姉ちゃんとお兄ちゃんがみかを守ってくれたみたいに、みかもるかを守れるようになれるかな?」
大きな瞳を不安げに揺らしながらなまえと五条を見上げるみかの小さな身体を、なまえはぎゅっと抱きしめた。
『なれるさ』
「……ほんとう?」
『うん。もうみかちゃんは立派なお姉ちゃんだよ。お姉ちゃんが保証する』
そっと身体を放してから、もう一度その小さな手をぎゅっと握れば。みかはなまえの後ろにいる五条を見上げた。
俺にも振るのかよ、とでも言いたげな五条の表情を、なまえはぎろりと睨みつけた。五条は罰が悪そうにぽりぽりと人差し指で頭を掻いてから、小さく口を開く。
「……病気なんかに負けそうになってんじゃねーぞガキんちょ。…諦めんな。一回でも諦めたらそれが習慣になる。オマエなら出来るって、俺達が信じてる自分を信じろよ」
五条はそう言って、みかの頭をぽんぽんと撫でた。みかの瞳には、もう先ほどまでの不安げな色はなくて。きらきらと、希望に満ち溢れているように見えた。
「ありがとう、お姉ちゃん、お兄ちゃん!!」
元気よくそう言ったみかの笑顔は、夕陽に負けないくらい眩しかった。
高専の補助監督に連れていかれるみかの後ろ姿を見えなくなるまで見送りながら、なまえは隣の五条に言った。
『…さっきのセリフ、”がんばれベアーズ”のパクリだろ』