第12章 StrawberryMoon
なまえの言葉に、五条はむすくれた様子でじっとなまえを見つめてからはぁ、とため息をついた。
「野薔薇も早速なまえに懐いてるよねー。困っちゃうね、ライバルが多くて。ただでさえ少ない休日も取り合いだよ、俺なまえの旦那さんなのに優先順位低くない?」
『悟はいつも一緒にいるんだからいいだろ』
「いつでも一緒にいたいんだよ」
『はいはい、駄々こねてないで帰るよ』
いつまでも子供のようにぶつぶつと文句を垂れる五条とともに、いつも通り帰路に着いたのだった。
都内の某高層マンションのエントランスを抜けて、エレベーターに乗って。玄関に入れば、決まって、五条が絡みついてくるのはいつものことだ。あまりにまとわりついてくるものだから、靴を脱ぐのですら一苦労である。結婚して、そしてこうして一緒の家で暮して10年。ずっと変わらない光景だ。
高専の寮に住んでいた頃と同様割と物が多いこの部屋は、二人で暮らすには少し広めの3LDKだ。たまにべろんべろんに酔った硝子や歌姫が泊まりにくるため、一部屋は空けてある。一応なまえの部屋もあるけれどあくまで形だけで、実質あまり意味がない。言うまでもないが、五条が常にまとわりついてくるからである。一人の時間なんて、五条が遠方への出張で家を開けている時くらいだ。呪術界最強の五条はどこでだって引っ張りだこで忙しいけれど、出張で県外に行く時以外は必ず家に帰ってくる。というか、県外でも車で1~2時間ほどの距離であれば出張中でも平気で帰ってくる。送り迎えをする補助監督の気持ちや苦労を考えろと口を酸っぱくして言ってきたが、彼は何を言ったって聞きやしない。"帰りたいから帰る"それは五条悟だから許される我儘である。
「ねえ一緒にお風呂入ろ」
『無理。ご飯の準備したいから先に入って』
「えーご飯はいいから先にお風呂入ろうよ」
『お腹空いてるの。ていうか上から乗っからないで、重い、靴脱げない、邪魔、退いて』
「なんでそんなに冷たいの?そういうプレイ?」
『冷たくないしそういうプレイでもないから』
先日行ってきた京都出張が相当寂しかったのか。出張から帰ってくると、しつこさがいつにも増して酷い。7月の頭にもお互い県外への出張が入っているため、尚更そのしつこさに磨きがかかっているのだろう。