第11章 始まりの青
―――2018年6月。
あれから、約10年の月日が経った。
五条は変わらず特級呪術師として、呪術師最強の座を守り続けている。あの頃から、変わった事と言えば―――彼が“教師”になったという事くらいだろうか。10年前の五条を知る人間たちからすれば、信じられないような出来事だろうけれど。彼は"夢"のために、日々、任務に加え呪術高専で教鞭を取っている。
そして、なまえはと言えば。ある程度任務をこなしながらもこの呪術高専にて実技講師兼研究員を務めている。その上、以前と変わらず反転術式が使える貴重な人材であるため、高専の医師となった硝子の助手や、呪術連に駆り出される事もしょっちゅうだ。そんな忙しない日々の中、数日間の出張から帰ってきたなまえの頭の中は、やらなきゃいけない事の整理でいっぱいいっぱいだった。
『まず報告書をまとめて…いや、書類の整理からか…硝子のところにも行かないと。恵の身体も心配だし…』
数日ぶりに高専に戻ってきたなまえは、ぶつぶつと独り言を言いながら高専の廊下を早足で歩いていた。そんなとき、後ろから声が掛かる。
「―――なまえさん」
数日ぶりに聞く聞き慣れた声に、なまえはぴたりと止まって振り返ると、そこに立ってこちらをじっと見つめている男の子の名を呼んだ。
『ーー恵』
伏黒恵。
今年、呪術高専の一年生になった。
星奬体の一件で、五条が初めて苦戦した相手――伏黒甚爾の息子。
9年前、禪院家に売られるはずだった彼を、呪術師として生きることを担保に五条が手回ししたのだ。そうして彼は、たった一人の家族である姉のためにもこうして呪術師として立派に生きている。