第6章 恋の方程式
夏の合同合宿を終えて、夏休みも残り僅かとなってしまった。が、我がバレー部に夏休みなんてものは存在しないも同義。
音駒高校唯一のマネージャーであるなまえも、熱気で溢れかえった体育館を今日も朝から走り回っていた。
『あー、あっつ!』
「……ほんと。帰りたい」
前髪から垂れる汗を拭いながらスクイズボトルを作っているなまえの横で、タオルを首に巻いた研磨がだるそうにぼやいた。
『あ、研磨何サボってんの!』
「……別にサボってないし。リエーフがうざいから逃げてきただけだし」
『それをサボってるって言うの!もー、今日は午後オフなんだから、もうちょっと頑張って!!ね?』
「……はあ」
憂鬱な表情でとぼとぼコートへ戻って行く研磨の背中を見送ってから、絶え間なくボトルを作り、練習の内容を事細かに記録する。時にはセッターとして試合に加わることもあるし、選手同様今日も大忙しだ。
けれど、その目の回るような忙しさが、今のなまえにはありがたかった。
理由は、余計な事を考えなくて済むから。夏合宿を終えて、約二週間が経とうとしているけれど、失恋の傷は一向に癒えてくれる気配はない。暇な時間があれば、ついついその事を考えてうじうじしてしまうから。
けれど。今日は午前練だけで、午後はオフだ。合宿前であれば嬉しくてテンションもだだ上がりのはずなのに、今のなまえにとっては逆だった。