第38章 ファン1000名様突破記念 読み切り
別に、彼女に未練があるわけでは決して無いのだが。仕事中もこうして今朝の出来事を思い起こす。
ああいった別れは、今まで数え切れないくらい経験してきた。
どれもこれも、始まりは向こうからだ。理由は色々。
俺の顔が好きだとか。仕事熱心なところに惚れたとか、もっと俺の事を知りたいだとか、まぁそんなとこ。
でも付き合って、数週間もすればいつも終わりが訪れる。
思っていたのと違った。私の事をいつまで経っても見てくれない。もっと大切にして欲しかった。決まってそんな言葉を残して、彼女達は俺の元から去って行く。
「…まぁ、べつに良いけどね」
仕掛けたトラップを、木の上から監視する。息を殺して獲物がかかるのを待った。
正直、俺にとって女性とは…心の拠り所ではなく、体の拠り所。
命のやり取りをする日々の中で、どうしたって昂ぶってしまう気持ちをぶつける存在となっていた。
そのような扱いをされれば、さすがに彼女達も気が付くのだろう。
このまま時間を共に過ごしていても、俺の心はいつまで経っても手に入れられない事に。
しかし…仕方がないではないか。何をされても言われても、ちっとも心が動かないのだから。
「!!来たか」
こちらへ移動してくる気配が三。三人ともトラップの餌食になってくれれば有難いのだが…。
あえて見え見えに張ったトラップを躱し、着地した地点の落とし穴に落ちる敵忍。残り、二。
目の前の仲間が落とし穴に落ちたのを見て動揺した奴は、その場から距離を取ろうとバックステップ。その着地地点を予測した所に仕掛けておいたワイヤートラップに腕を取られ、そのまま宙へと持ち上げられる。
残り一。ラストのこいつが、囚われた仲間を救出する動きを見せれば、最後のトラップが発動するのだが…。
どうやら、その目論見は外れたらしい。冷静に状況を見極めた男は、その場から動かない。
「…へぇ、やるもんだね」
おそらくここで待っていても、奴がトラップにかかる事は無いだろう。そう悟った俺は、直々に手を下す事を決めて。素早く木から身を落とした。