第33章 帰郷と目論みと、光と闇と
「先生!」
「うわ!びっくりした…どうしたのカカシ。
そんなに必死で…息切らしちゃって」
俺は、元来た道を全速力で駆け戻った。
そしてミナトの元へ詰め寄る。
「俺を、エリの世界へ飛ばして下さい」
「!!」
彼は、世界がひっくり返ってしまったかのような表情で驚いていた。それもそうだろう。
俺だって、俺がこんな事を言うなんて信じられないのだから。
「……それ、本気で言ってるの?」
空気が、ピリリと振動した。
四代目火影が本気で怒っている。
「冗談で言えませんよ。こんな事」
しかし、俺とて折れる気はない。彼の怒気に のまれてしまわないよう、目を逸らさない。
「……はぁ。本当にどうしたのカカシ…。
君らしくないよ」
「俺らしいってのは…どんなですか」
「正心と忍耐。身体の敏捷。頭脳の鋭敏。どれも忍の鉄則だ。
彼女に会うまでの君は、全部上手に出来てたじゃないか」
「…ない、…です」
「え?」
「覚えてないんです。彼女に会う前の俺を」
心の奥から滲み出たような笑みを浮かべる俺を、ミナトはそんな馬鹿な。という顔で見つめる。
「ちょ、ちょっと落ち着いて。
仮に俺がカカシを送れたとしても!広大な敷地の世界で、莫大にいる人の中から、彼女を探すのかい?
それで本当に会えると思ってる?現実的じゃない」
「ま、そこはなんとかします」
ミナトは、頭に手をやって考え込む。きっと今彼は、酷い頭痛に襲われているはずだ。
「カカシも分かってると思うけど、こちらからは一方通行なんだ。
君を転送すれば、二度と…ここには帰れないんだよ?本当に意味分かってるの?」
「はい」
ついに彼は、頭を抱えて下を向いて固まった。
一度答えを出してしまえば、こうも清々しい気持ちになれるものなのか…
ミナトとは正反対に、俺の頭は素晴らしくクリアだった。
「……カカシ」
やがて顔を上げたミナトは、俺を睨み上げた。
ぞくりと嫌な気配がこの部屋いっぱいに満ちる。
「俺は…
君があっちの世界に行く事、許さない」
両拳を握り込む。使い込まれたグローブから、ぎゅっと音がした。
「…先生を、張り倒してでも行きます」
「そうか……
っていやいや!
カカシくん!?俺を張り倒しちゃったらどうやって向こうに行くの!
さては君かなりテンパってるな!?」