• テキストサイズ

モノクローム【NARUTO】

第33章 帰郷と目論みと、光と闇と




ぐらつく足をなんとか交互に前に出して。
建物の外に出て、ゆっくりとだけど前に歩む。

これで…よかった。
俺が側にいられなくても、彼女が存在していて。
安全な世界で生きていてくれれば…


《……私の名前は…
中崎…。中崎エリです》


《ありがとう…私を見つけてくれて。
ありがとう…私と一緒にいてくれて。

私、まだ生きてたいっ。
二人と一緒に、この世界で生きてみたいっ》


《負けたとか、折れたとか!そんなんじゃ、駄目なんです。嫌なんです…、
ちゃんと、お互い自分の気持ちを相手に伝えて話をして分かり合わないと…っ、
私とはたけさんの距離は…、一ミリも近付かない!

そんなのは、私は…、嫌っなんです…》


《最後まで、ちゃんと。
自分の人生をきちんと楽しんで、

生きて、生きて生き抜きますから!》


どうしてだろう。思い出すのは、出会った頃の君ばかりだ。

自分の世界で自殺を図った君が、不思議な因果で俺と出会って。
生きる事を諦めないでいてくれた。

俺は本当に嬉しかった。幸せな日々だった。

でももう、それも終わりだ。
俺は、君に会う前までの俺に戻るよ。


「……あれ」

君に会うまでの、俺?
それって一体…どんなだったっけ。

毎日何を考えて生きてた?
何を食べて生活していた?
何があって笑ってたっけ?

あれ。困ったな。全く思い出せない。


ふわりと、温かいものが右目の下に触れた。

「!!」

俺は思わずその部分に手をやった。
するとそこには、一枚の桜の花びらが。

「…びっくりした。涙かと、思った」

不思議だった。この辺りに桜の木は一本もない。だというのに、この花びらは一体どこから降って来たのか。

そういえば…
三人で花見に行く約束、果たせなかった。
新しく開店した居酒屋にも行っていない。

あれ、俺これ…
そうか。これが、一生の別れか。

交わした約束が果たされる事は一生ない。
笑顔が見れる事も一生なくて、声が聞ける事も一生ないのだ。


そんな簡単な事も、俺は本当は分かっていなかったのではないか。

そんな事、耐えられるはずがない。
無理だ。エリの存在をいまさらなかった事にするなんて。

だって俺は…
俺の人生の中で、確かに彼女に出会ったのだから。

/ 630ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp