第29章 別れと髪と、湯と理性と
「…大怪我、させたな。本当に悪かった。
アゲハが…あそこまでお前を憎んでいたと、俺は読めてなかった。
ただ、カカシに構って欲しいだけだと思ってた」
そう言って、セツナは懐から一枚の写真を取り出して私に見せた。
そこには、私の姿が写っていた。勿論こんなもの撮られた覚えはない。
「アゲハが俺に渡して来た物だ。
ミナトとカカシの弱点だって言ってな。
今から思えば…
俺がアゲハを利用していたつもりになっていただけで、実のところ…俺の方があの女に利用されていたのかもな」
今までの人生で、ここまで人に純粋な悪意をぶつけられた事はない。
『…彼女は、はたけさんの事が大好きだから。
あの人の近くにいる私が憎くてしょうがないんだろうね。
前言われた事があるんだ…。なんの努力もしてない私なんかが、はたけさんの側にいるのが許せないって』
人の愛情というのは、裏を返せば恐ろしい。
「……」
しばらく何かを考え込んで、話さないサツナ。長い時間を置いた後、彼は驚きの言葉を口にした。
「エリは、違う世界の人間みたいだよな」
『!?』
唐突な彼の言葉に、思わず体を起こしそうになってしまった。
「んなに驚くなよ。なんとなく思っただけだ」
『そ、そうだよね…』
「ミナトとカカシが、側に置いときたくなる気が分かんだよ。
アンタは、この世界の当たり前の理屈に染まってなくて。眩しくて…、自分が暗い海で迷子になりそうになっても、アンタさえ見失わなければ 戻ってこられる。そんな気になるんだよな。
まるで、あれだ。灯台…、みたいな」
『…そんな大それた物じゃないよ。私なんて…
自分じゃ何も出来なくて、何の力も無いのに、あれはして欲しくない、これはして欲しくないって。駄々捏ねてるだけだもん』
「まぁ、たしかに。偽善的で非現実的で、理想押し付けてるところはあるけどな」
『…ちょっと言い過ぎじゃない?』